2023.03.31

自社株の納税猶予(事業承継税制)と種類株の活用について

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

この記事をシェアする

友だち追加

事業承継税制の概要

上場していない会社が後継者に株式を承継するときには多額の贈与税が課されることがしばしばあります。

贈与せず放置しても相続税が多額に課税され、納税できない場合には後継者が納税のための借金をかかえることもあります。

そのため、後継者が負担を強いられ、又は強いられることを予測して会社を清算することもあります。

会社がなくなってしまうと働く場所が減り、経済がまわらなくなってしまいます。

政府としてもこの事態を回避するために、納税を猶予する制度を設けています。

それが事業承継税制です。

非上場の会社の事業承継で弊害となる税金を猶予することで

  • 後継者にバトンタッチを促し
  • 企業の存続を維持し
  • それにより従業員の雇用を維持してほしい

という趣旨があります。

現在は一般制度(2/3までの株式承継が対象)のほか期間限定で特例制度(全株対象)が存在しています。

一見良さそうな制度ですが、注意したいのが以下の3点です。

1)納税の 「猶予」 であり、「控除」では無いこと

2)株を渡す都度(父➔子、子➔孫)、この制度の適用を受け続けないと猶予されないこと。

3)特例制度を活用しても、法律の期間が終わってしまうと、その次適用を受ける時は一般制度になってしまうことすなわち、2/3までしか納税猶予受けれなくなってしまう。

種類株とは

後継者がまだ若く、発言も経営者として思慮に欠ける等の理由から事業承継が進まないケースもよくあります。

本制度の対象財産である「株式」を渡してしまうと後継者があらぬ方向に経営のかじ取りを行ったとしても誰も止められなくなってしまいます。

そこで、株式そのものに色をつけることで、後継者が間違った方向に行こうとしたときにストップをかけられるような仕組み作りを検討することとなります。

その手法として挙げられるのが種類株です。

具体的には

① 後継者の議決権そのものを制限する方法

② 重要な決議のみに「拒否権」を発動できるようにする方法

③ 後継者の「役員」としての立場をいつでも解任できるようにする方法

等があります。

それぞれ後継者の立場になってみると

① 株主総会を握られているため、いつ解任されるかわからない

② 「拒否権」があると大きな事業転換をする際に、先代に説明が必須

③ いつ解任されるかわからない

という状況下で暴走することは考えにくく、仮に暴走してしまったら、先代経営者が役員(経営陣)から外したり、株主総会で決議を拒否をすればよいということになります。

(拒否をしたはずなのに、取引を強行されていた場合の扱いについては割愛します)

事業承継税制と種類株

事業承継税制の趣旨を再掲いたしますと

  • 後継者にバトンタッチを促し【株式と経営を承継】
  • 企業の存続を維持し【株式を継続保有】
  • それにより従業員の雇用を維持してほしい【雇用継続】

でした。

上記の種類株を導入すると、【株式と経営を承継】の【経営】の部分が終わっていないように思えます。

そのため、事業承継税制では一定の種類株については注意を要します。

具体的には

  • 拒否権付株式の発行会社については、拒否権付株式も一緒に後継者に渡さないといけない
  • 議決権制限付株式は対象財産とならない(一部制限株式も含む)

とされています。

また、【株式を継続保有】という観点からも

取得条項付株式については、取得条項が発動し、会社が買い取った時点で納税猶予が終了し、議決権割合が薄くなり、筆頭株主でなくなってしまうと、全体の納税猶予が終了してしまいます。

そのため、種類株は事業承継税制と相性が悪いと言わざるを得ません。

どうやって種類株を導入するか

種類株と事業承継税制の相性の悪さについて解説しましたが、全く導入ができないわけではありません。

いきなり経営と株式を渡すのは、数々の事業承継の現場を見てきた私たちも実態にそぐわないことを知っています。

そこで、それぞれの良い部分を活かした活用方法についてご説明いたします。

※ここでご説明する方法は租税特別措置法が準用する相続税法の否認規定等も含め、専門家による判断を必ず仰いで実効することを推奨します。内容の保証をするものではありませんのでご注意ください。

前提

1)A社は父が設立した会社で、自社株の評価が高額になっている

2)父はA社の普通株を100%(代表取締役)保有し、後継者である子は株を保有していない

3)子は10年前より取締役に就任している

4)父は子にいずれ渡したいが、すべてを任せるにはまだ早いと考えている

5)当期はたまたま株価が低くなったため、贈与を先に終わらせたい

実行内容

  • A社で種類株を導入(役員選任権付)
  • 当該種類株を父が取得
  • 代表取締役を子へ交代する
  • 普通株を子へ贈与し、事業承継税制の適用を受ける
  • 贈与していない残りの株は遺言で子(後継者)へ

実行効果

  • 贈与税の納税猶予の規定を受けながら、種類株により子の暴走を想定した予防策を講じることが可能です。

おわりに

いかがでしたか?この記事では

  • 事業承継税制の概要
  • 種類株とは
  • 事業承継税制と種類株

についてご説明いたしました。

事業承継に関することはお気軽にお問い合わせください。

この記事をシェアする

友だち追加
  • 平日夜間対応
  • 事前予約にて
    土日祝対応
  • テレビ会議対応

相続に関すること、お気軽に
ご相談ください。相談は無料です。