2022.07.31

被相続人の介護と「寄与分」・「特別寄与料」について

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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はじめに

御家族に相続が発生した場合は多くの場合において、残された相続人間で遺産分割協議を行うことになります。財産内容や家族関係にもよりますが、遺産分割協議において揉めるケースは少なくありません。

「相続=争族」と言われる所以はそこにあります。揉める要因としては様々ありますが、今回はそのうちの1つである「寄与分」についてご紹介します。

この記事を読めば、亡くなった方に対して介護を一生懸命してきたが、遺産の取り分はどうなるのか、また、現在実際に介護を行っている方が行える対策をお知り頂くことが出来ます。

寄与分とは

被相続人の介護等を一生懸命行い、その方の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人は、遺産分割において、自己の取得分を増やすことが出来る「寄与分」という制度があります(民法第904条の2)。

この寄与分は、シンプルに表すと被相続人への貢献度です。

親の介護をしてきた子と介護をしてこなかった子で対立するというケースは珍しくありません。

親の介護をしてきた分、他の相続人より多めに相続を受けたいという考えから、揉める要因となってしまいます。

このような要因に配慮し、療養介護をしてきた相続人に相続分以上の財産を取得させるための「寄与分」という制度が定められているのです

寄与分の請求とその条件

寄与分の請求は、寄与者が他の相続人に直接申し出を行う必要があります。

請求する金額に具体的な決まりはなく、他の相続人が納得すればその金額で遺産分割協議を進めることが出来ます。

金額の提示を行う際には、診断書やカルテ、療養看護の記録、介護日記等が根拠資料となります。

しかし、揉めてしまい収拾がつかない場合は調停を行い、 調停でも決まらない場合は家庭裁判所の審判により決定されます。

この寄与分を家庭裁判所から認めてもらうためには下記の要件をすべて満たしている必要があります。

①寄与行為が親族としての通常期待される以上(特別の寄与)であること

②介護が片手間ではなく専念していたこと

③介護を相当期間継続したこと

④対価を得ていないこと

⑤寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係が認められること

⑥これらの主張の裏付けとなる証拠資料を提出すること

寄与分の相続税申告の取り扱い

被相続人の財産総額から寄与分の金額を控除して残額を遺産分割します。

最後に寄与分が認められた相続人が、その寄与分を相続します。

具体例を挙げると、相続人は子3人、遺産が6,500万円あったとして、寄与分が500万円認められたとします。

この場合、まず6,500万円から500万円を控除した6,000万円を基準として遺産分割協議を行い、法定相続分である3分の1ずつ相続することが決定した後、寄与分が認められている相続人は、2,000万円+500万円=2,500万円を相続することが出来る形になります。

法定相続分の割合が変化するわけではありませんので、その点ご留意ください。

療養看護型の寄与分の算定方法

介護日数×介護報酬相当額×裁量的割合という計算式で計算されます。

実際に介護に要した日数に、介護施設のヘルパーに介護を依頼した場合の介護料を乗じて、一定の裁量割合を加味して算定するイメージを持って頂ければと思います。

介護報酬相当額は、介護保険制度で要介護度に応じて定められている介護報酬基準額です。過去の判例では1日5,000円~8,000円程度です。

裁量的割合は、元々、親族には扶養義務があって、介護等の専門家ではないため介護報酬費用を控えめに算定するためのものです。

留意点としては、入院・施設へ入所していた場合、その期間は原則として寄与分が認められません。

寄与分(療養看護型)が認められた判例

事件名:遺産分割申立事件寄与分を定める処分申立事件
被相続人に対する身上監護を理由とする寄与分の申立てに対し、被相続人が認知症となり、常時の見守りが必要となった後の期間について、親族による介護であることを考慮し、1日あたり8,000円程度と評価し、寄与分を876万円と定めた事例。

主文
相手方の寄与分を876万円と定める。

裁判年月日 平成19年 2月 8日
裁判所名 大阪家裁
事件番号 平18(家)556号 ・ 平18(家)1358号
事件名 遺産分割申立事件寄与分を定める処分申立事件
裁判結果 認容 上訴等 確定
文献番号 2007WLJPCA02086001

特別寄与料の制度

上記で述べた寄与分の主張は従来相続人に限られていました。

そのため例えば長男の妻(嫁)が、被相続人(義理の親)の介護を行っていた場合には、妻は相続人ではないため財産を相続することは認められていませんでした。

上記のようなケースを考慮する趣旨で、2019年の相続法の改正によって「特別寄与料」という制度が新設されました。

これによって、相続する権利がない人が被相続人の介護等をしていた場合でも、遺産の相続人に「特別寄与料」 を請求できるようになりました

上記のケースでは、介護を行った長男の妻(嫁)が他の相続人に対して「特別寄与料」を請求出来ます。

ただし、特別寄与料の制度に該当するのは、6親等(従兄弟の孫等)内の血族と、3親等(甥や姪等)の内の姻族(血族の配偶者等)の親族になります。

事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人には適用されません。

また、相続人が請求する「寄与分」とは異なり、こちらの相続人以外が請求する「特別寄与料」の請求は期限内に行わなければならず、相続が開始したこと及び相続人を知った時から6か月以内、または相続開始から1年以内と定められています。

揉めて協議が整わない際は家庭裁判所に対して審判の申立てを行うこともできますが、これも上記期限内に行わなければなりません。

また、特別寄与料を取得した人に相続税が課税されますが、相続人以外の人が取得することになるため、「相続税額の2割加算」の対象になります。

介護を一生懸命された方が取れる対策

上記で述べた「寄与分」「特別寄与料」ですが、相続人同士で協議がまとまればそれが最善ですが、家庭裁判所が認めるのには少々ハードルが高いため、認められないケースも少なくありません。

認められない場合、一生懸命介護を行ったのに報われないことになりますので、生前のうちに取れる対策を下記でご紹介します。

遺言書の作成

被相続人が、介護を献身的に行ってくれた方に遺産を多く与えるような遺言書を残しておく方法です。

他の相続人の遺留分(基本的に法定相続分の1/2)を侵害しないものであれば後々のトラブルにも発展しません。

生前贈与

財産を先に渡し、特別受益の持戻し免除の意思表示をしておけば、仮に生前贈与を行ったとしても相続財産に持戻されることはなく、多くの財産を渡すことが出来ます。

ただし、上記の2つの方法にはそれぞれ、遺言書の書き直しリスクや紛失リスク、財産を先に渡してしまったことで介護していた方の生活が変わってしまい、介護を突然やめてしまうというリスクもあります。

そのため、下記の方法を検討されるのも良いでしょう。

負担付死因贈与

贈与契約の一種で、例えるなら「介護を最期まで献身的にしてくれたら〇〇(財産)を渡す」という条件付きの贈与契約です。

一見、遺言とあまり変わらないように思えますが、
遺言は被相続人により何度でも変更可能ですが、一方で負担付死因贈与契約の場合は一度締結した契約は受贈者の同意がないと変更出来ないという違いがあります。

この負担付死因贈与は贈与税ではなく、相続税の対象です。

生命保険の活用

最後に一般的な相続対策で挙げられる生命保険の活用も有効的です。

被相続人契約の生命保険の受取人を財産を渡したい方に指定しておく方法です。

生命保険は相続財産ではなく、受取人固有の財産ですので遺産分割協議の対象にならず、遺留分の算定にも含まれないため、確実に資産を残しておきたい方がいる場合には有効的です。

ただし、過度な遺留分対策は相続財産に戻して計算する(つまり効果が無くなってしまう)ことになってしまうため、専門家と相談しつつ活用しましょう。

おわりに

いかがでしたか?

この記事では被相続人の介護と「寄与分」、「特別寄与料」についてご説明いたしました。

最後にご紹介した生前に出来る対策はいずれも被相続人に意思能力があることが前提になりますので、認知症になってしまう前にアクションを起こす必要があります。

もし認知症の方の場合でも寄与分、特別寄与料の請求を行うために、根拠書類を整えるなどのアクションが必要です。

この記事が現在介護を献身的に行われている方の一助になれば幸甚です。

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