2023.07.02

インボイス制度と相続

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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はじめに

最近「インボイス制度」という言葉をよく耳にしませんか?

消費税の新しい制度だと何となくはわかるけれど、「相続とは関係あるのだろうか?」「相続で事業を引き継いだ場合、インボイス制度について何か手続きが必要なのだろうか?」とお悩みではありませんか?

今回のコラムでは

1.インボイス制度とは?
2.事業を行っていた方が亡くなった場合、インボイスの登録は必要?
3.インボイスの登録は引き継げる?必要書類と注意点

についてご説明いたします。

インボイス制度とは?

インボイス制度とは、「適格請求書等保存方式」のことで、令和5年10月1日から開始される消費税の仕入税額控除の新しい制度のことです。

そもそも「仕入税額控除」がよくわからない…という方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明いたします。

消費税の課税事業者は、売上げに対応する消費税から仕入れや経費に対応する消費税を差し引いて、その差額を納税することになるのですが、この「仕入れや経費に対応する消費税を差し引くこと」を「仕入税額控除」といいます。

インボイス制度が始まると、この「仕入税額控除」を受けるためには、「インボイス(適格請求書)」を保存する必要が出てきます。

「インボイス(適格請求書)」とは、決められた項目が記載された請求書や領収書等のことで、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録している事業者でないと発行することができません。

ですので、消費税の課税事業者が「仕入税額控除」を受けるためは、以下の①~③すべてが揃っている必要があります。

 ①取引先(仕入先)がインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録していること
 ②その取引先(仕入先)から「インボイス(適格請求書)」を発行してもらうこと
 ③その発行してもらった「インボイス(適格請求書)」を保存すること

ここまで読んで、「うちは消費税の免税事業者だから関係ないな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ご自身が免税事業者であっても、取引先(売上先)が課税事業者であれば、取引先(売上先)から『「インボイス(適格請求書)」を発行してほしい』と要望があるかもしれません。

その場合、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録することも検討しなければいけませんので、まったく無関係とは言い切れないのです。

インボイス制度について、さらに詳しく知りたい方は、国税庁の特設サイトをご覧ください。
▼国税庁「特集 インボイス制度」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm

以上のことから、インボイス制度とは、事業を行っている方に関係のある消費税の制度であり、亡くなった方が事業(一部の不動産貸付業を含む)を行っていなかった場合には、特に気にする必要がない制度であることがおわかりいただけたかと思います。

事業を行っていた方が亡くなった場合、インボイスの登録は必要?

では、事業を行っていた方が亡くなった場合はどうでしょうか?

亡くなった方が、

  •  既にインボイス発行事業者だった場合
  •  消費税の課税事業者だった場合
  •  消費税の免税事業者だった場合

の3つに分けて見ていきましょう。

亡くなった方が、既にインボイス発行事業者だった場合

亡くなった方が、既にインボイス発行事業者だった場合は、相続人は自動的に4ヶ月間は課税事業者となり、消費税の納税義務が生じると共に、インボイス発行事業者の地位(具体的には登録番号)を引き継ぎます。

そして、4ヶ月が経過するとその効力がなくなります。

これは、消費税手続きが相続開始前後で異なってしまうと日頃の経理が大変になることを加味した措置です。相続開始前後でも従前の処理を4ヶ月は続けられるように配慮したものとなります。

この4ヶ月の間に以下の「 亡くなった方が、消費税の課税事業者だった場合 」について検討する必要がありますので、このまま次をご覧ください。

亡くなった方が、消費税の課税事業者だった場合

亡くなった方が、消費税の課税事業者だった場合は、取引先(売上先)が、消費税の免税事業者なのか課税事業者なのかにより対応が異なります。

取引先(売上先)が、免税事業者や一般消費者の場合、取引先(売上先)が「仕入税額控除」を受ける必要がないため、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)への登録は特に必要ないでしょう。

反対に、取引先(売上先)が課税事業者の場合は、取引先(売上先)が「仕入税額控除」を受けるために、基本的にはインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録が必要だと言えます。

亡くなった方が、消費税の免税事業者だった場合

亡くなった方が、消費税の免税事業者だった場合も、取引先(売上先)が、消費税の免税事業者なのか課税事業者なのかにより対応が異なります。

取引先(売上先)が、免税事業者や一般消費者の場合、取引先(売上先)が「仕入税額控除」を受ける必要がないため、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)への登録は特に必要ないでしょう。

反対に、取引先(売上先)が課税事業者の場合は、取引先(売上先)からの要望にもよりますが、取引先(売上先)が「仕入税額控除」を受けるために、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)への登録が必要になる可能性があります。

ただし、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に登録すると、必然的に消費税の課税事業者となってしまうため、消費税の免税事業者の恩恵が受けられなくなってしまいます。

期間限定で優遇措置の特例なども設けられていますが、これまではなかった消費税の税負担が生じることになりますので、登録した方が良いのか、登録しない方が良いのか、慎重に検討する必要があるでしょう。

インボイスの登録は引き継げる?必要書類と注意点

亡くなった方が、既にインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を行っていた場合、亡くなった方のインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録は、引き継げるのでしょうか?

答えは、「NO」です。

亡くなった方のインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録が、事業を引き継いだ方に自動的に引き継がれることはありません。

事業を引き継いだ方が、新たに登録しなおす必要がありますので、注意が必要です。

では、事業を引き継いだ方が、新たにインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録をする際には、どのような書類を提出すれば良いのでしょうか?

必要書類と注意点についてご説明します。

※なお、提出が必要な書類は、相続開始日によって違いがありますので、ご注意ください。

令和5年10月1日より前に亡くなった場合

※令和5年9月30日までに、以下を提出する必要があります。

・事業を引き継いだ方ご自身の「適格請求書発行事業者の登録申請書」
・亡くなった方の「個人事業主の死亡届出書」

令和5年10月1日以降に亡くなった場合

・事業を引き継いだ方ご自身の「適格請求書発行事業者の登録申請書」
・亡くなった方の「適格請求書発行事業者の死亡届出書」

注意点

令和5年10月1日以降に亡くなった場合、相続開始日の翌日から4か月以内は相続人を適格請求書発行事業者とみなす措置が設けられていますが、それを過ぎると「インボイス(適格請求書)」が発行できなくなってしまいます。

「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出から登録までには、審査等に一定の期間を要します。

取引先(売上先)に迷惑をかけないためにも、事業を引き継いだ方は「適格請求書発行事業者の登録申請書」を、できるだけ早めに提出するようにしましょう。

おわりに

いかがでしたか?今回のコラムでは

インボイス制度と相続

についてご説明いたしました。

事業を行っていた方が亡くなった場合、インボイス登録の申請の他にも、準確定申告書など様々な書類を提出する必要があります。

提出の締め切りが短いものもあり、なじみがない方には難しく感じられることもあるかと思います。

そのような場合には、専門家に依頼することも一つの方法ではないでしょうか。

相続に関するお悩みは、お気軽に福岡相続テラス(税理士法人アーリークロス)にお問い合わせください。

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