2021.03.01

不動産の生前贈与の検討手順

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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はじめに

「不動産を贈与したいけど、どのように検討をすればいいのだろう?」と悩んでいませんか?

この記事で紹介する不動産贈与の検討フローを活用すれば解決することができます。

なぜなら不動産の生前贈与は検討すべき項目がある程度定まっているからです。

この記事では、不動産の生前贈与を判断するときの「検討手順」「贈与後に必要なこと」の2つをご紹介します。

この記事を読み終えると、不動産の生前贈与について悩みが解消され、検討すべき項目を整理いただけるようになります。

手順1「不動産の方針」渡す不動産をどのようにしてほしいかを考えましょう

不動産を引き継ぐ子の目線になってみましょう。

その不動産をどのようにしてほしいか、親から希望を何も言われていないと、自身で考える必要があるとはいえ、困惑すると思いませんか?

余談ですが、弊社でご対応する相続は遺言書があるケースは思いのほか少ないです。

全体の4分の1程度です。

つまり、ほとんどの相続は、財産をどのようにしてほしいか伝えていないのです。

例えば、長男に引き継いで欲しい、配偶者の生活の足しにしてほしいなどです。

その結果、子ども達は財産の分け方と、その処分方法にとても苦慮し、「面倒だから」という理由で相続を放棄する相続人もいます。

生前贈与をする際はなおさら必要なプロセスです。

手順2「もらう人の負担」を数値で算出しましょう

その不動産の方針を決めたら、次はもらう人が、その不動産に割くことになるお金と時間に分けて考えましょう

相続の遺産分割協議の現場では、財産目録に不動産の売却価格を基礎とした数値が記載されます。

しかし、本来その不動産は売却だけが価値ではなく、居住や賃貸含めその運用方針によって価値が決まるものです。

遺産分けはこれらを考慮しないと、平等感が保てません。

つまり、渡す人が運用方針に合わせた価値を伝えてあげると円滑な承継につながります。

手順3 収益を生む不動産は、生前贈与を積極的に検討しましょう

収益を生む不動産は、遺産分割を行う際に、相続人にとってはどのように財産分けをしてよいか判断しづらい財産です。

財産ごとに管理工数を含めた収益性が異なりますし、修繕計画等も含め、不動産経営は相続で突然渡されてしまうと困ってしまうこともしばしばあります。

相続税の観点から、収益不動産を所有すると、それだけで財産増加につながり、相続税が高まってしまうことになります。

したがって、収益不動産は早期に贈与を検討しましょう。

賢い生前贈与の方法についてはこちらをご覧ください。

どれくらい贈与税や相続税が変わってくるかをお知りになりたい方は、無料シミュレーションを実施していますので、詳細は弊社までご相談ください。

手順4「兄弟姉妹のバランス」他の子ども達とのバランスを考えましょう

相続のときに相続人が、最低限の取得を保証される金額のラインを遺留分といいます。

この遺留分を侵害し、請求された場合、侵害部分を金銭で支払わなければいけません。

例えば、今回生前贈与する不動産が、将来値上がりした場合、この遺留分の算定基礎になる財産※の時価はどのように計算するでしょう?

値上がり後の相続時の時価を基準として計算します。

そのようなことにならないように、円満に財産を承継するには、事前の話し合いや遺言を活用する等、様々な方法があります。

※一定の場合を除き、相続前10年間の生前贈与は持ち戻して、遺留分の計算を行います。

手順5「いつ?」いつ渡すか、再度検討してみましょう

不動産の生前贈与について、ここまで記載しましたが、一度立ち止まって、いつ渡すかを再度検討してみましょう。

  • ①生前贈与で渡す
  • ②相続、遺贈で渡す

この違いについて税金面から検討してみます。

ここまでの手順で、その不動産を「誰に」「どういう方向性で」まで定まったかと思います。

改めて「いつ渡すか」を振り返って検討してみるのも良いと思います。

生前贈与で渡す場合

  • 後記する様々な非課税があります 。
  • 財産をもらった人は、相続よりも高い不動産取得税と登録免許税を支払う必要があります。
  • 一般的に、相続税よりも贈与税のほうが税率が高いことが多いです。
  • ※反対に贈与税率のほうが低い場合もあるため、うまくこれを活用すれば相続税対策になります。

相続、遺贈で渡す場合

  • 相続税にも小規模宅地等の特例という大変有利な非課税規定があります。
  • 配偶者が自宅に住む権利と、子が自宅を所有する権利を分離して財産を渡す方法が可能になります(配偶者居住権)。
  • ※二次相続の際に、相続税が有利になる可能性があります。
  • 生前贈与よりも不動産取得税と登録免許税が安くなります。
  • 遺言の作成を事前にすることをおすすめいたします。

手順6「渡し方」渡し方を工夫してみましょう(生前贈与の場合)

不動産の生前贈与に関する非課税規定がありますので、ここでご紹介いたします。

これら有利な規定が使えそうであれば、積極的に活用しましょう。

こういった特例はあくまで納税者の選択となります。

ご自身で相続や贈与に関する勉強をした結果、これらの特例まで手が回らず、税の納めすぎとなっていても、税務署からは反応はありません(税務調査することで反対に税金を還付しないといけないからです)。

これらの規定の適用を含め、なるべく専門家に相談しましょう。

非課税規定その1 住宅取得等資金の非課税贈与

【効果】

  • 子や孫へ住宅を取得するための資金贈与について、贈与財産の価額から一定金額※が非課税になる規定です。
  • R3.3.31までの贈与:1,500万円、R3.12.31までの贈与:1,200万円(消費税率10%)

【要件】

  • ①もらう人の要件(次のすべての要件を満たすこと)
    • ⅰ 贈与時に贈与者の直系卑属であること。
    • ⅱ 贈与年の1月1日において、20歳以上であること。
    • ⅲ 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下であること。
    • ⅳ 一定の場合を除き、平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告でこの規定の適用を受けていないこと
    • ⅴ 親族などから住宅用の家屋の取得等をしたものではないこと
    • ⅵ 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てていること。
    • ⅶ 一定の場合を除き、贈与時に日本に住んでいること。
    • ⅷ 贈与年の翌年3月15日までに取得等した家屋に実際に住んでいること、又は、遅滞なく住むことが見込まれること(遅くとも贈与年の翌年12月31日までに)
  • ②資金使途の要件
  • ⅰ新築又は取得の場合の要件(次のすべての要件を満たすこと)
    • イ 取得した家屋の登記簿上の床面積が50㎡~240㎡の範囲内であり、かつ、その家屋の50%以上を居住用に供すること
    • ロ 取得した住宅が次のいずれかに該当すること。
      • a 建築後、継続して未使用の居住用家屋であること
      • b 建築後使用されたことのある居住用家屋であっても、築20年(鉄骨造、RC等の場合は25年)以内であるもの
      • c 建築後使用されたことのある居住用家屋であっても、耐震性基準に適合するもの(一定の証明が必要です)
      • d その他一定の居住用家屋
  • ⅱ増改築等の場合の要件
    • イ 増改築等をした後の家屋の登記簿上の床面積が50㎡~240㎡の範囲内であり、かつ、その家屋の50%以上を居住用に供すること
    • ロ 増改築等に係る工事が、事故が所有かつ居住している家屋について行われたもので、適用をうけることができる工事として一定の書類により証明されたもの
    • ハ その工事費用が100万円以上であり、かつ、その費用の50%以上が自己の居住部分にかかるものであること
  • ③手続き要件
  • 申告及び一定の書類添付が必要となります。
  • 詳細は弊社までお問い合わせください。

非課税規定その2 おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)

【効果】

  • 贈与税の計算上、贈与財産の価額から最大2,000万円が非課税になる規定です。

【要件】

  • ① 婚姻20年間を経過していること
  • ② 贈与財産が、居住用不動産又はその取得のための金銭であること
  • ③ 贈与年の翌年3月15日までに、その不動産に実際に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
  • ④ 同じ配偶者から取得した財産について、過去にこの規定の適用を受けたことがないこと
  • ※いずれの要件も、税制改正等により要件変更される可能性があります。実際に適用する場合には必ず専門家にご相談ください。

贈与後に検討すべきこと 当初購入時の売買契約書を探しておきましょう

ここまでで生前贈与の検討については以上となります。

ここからは、贈与を受けた人にとってお得な情報を掲載したいと思います。

ポイント1 生前贈与した不動産の当初購入時の売買契約書も一緒に渡してあげましょう

遠い将来、その不動産を手放すことがあるかもしれません。

そのときに、少しでも無駄な税金を払わないために必要な情報が、この書類です。

不動産を売却する場合、購入価額よりも高く売れた場合は税金がかかります。

しかし、購入価額よりも低く売れた場合には税金はかかりません。

では、当初の購入価額がわからない場合はどうなるでしょう。

売った金額の約19%が所得税と住民税となります。

特別控除等の有利な規定を適用できなければ、購入価額よりも低い金額で売ったとしても税金がかかることとなるのです。

繰り返しとなりますが、当初購入時の契約書は用意しておきましょう。

※購入価額が不明な場合でも、市街地価格指数による算定方法もありますが、当局による否認リスクが高い不安定な方法です。

https://www.kfs.go.jp/service/JP/60/19/index.html

ポイント2 遺言書を残しましょう

不動産の生前贈与を受けた子と、贈与を受けなかった子で、バランスが崩れてしまいます。

この状態で相続が発生した時に、不穏な雰囲気になってしまうことが多々あります。

遺言書を残すことで、緩和することが可能です。

理由は2つあります。

  • 金銭等でバランスをとってあげる
  • 付言事項で想いを伝える

付言事項とは、「メッセージ」です。

遺言書を作成した人の「メッセージ」を記載することができます。

  • 先祖代々の土地を○○に守って欲しいと思っている。
  • この土地は維持するのに相応の費用がかかるから、○○には負担をかけてしまうが、どうかよろしく。
  • また、●●と◆◆は遺留分のことをとやかく言わず、このことを十分に理解してほしい。
  • くれぐれも兄弟姉妹仲良くこれからも生活してほしい

お客様の許可を頂いて、実際に残した付言事項です。

このようにメッセージを遺言書自体に記載することが可能です。

思いの外この付言事項は、相続の現場では大きな効果がありますので是非ご活用ください。

おわりに

いかがでしたか?

この記事では

  • 不動産の生前贈与を検討する手順(方針、負担、バランス、いつ?、渡し方)
  • 贈与後に検討すべきこと(当初購入時の売買契約書の準備、遺言書の作成)

についてご説明いたしました。

福岡相続テラス(税理士法人アーリークロス)では相続専門の税理士が初回無料相談を行っております。

お気軽にお問い合わせください。

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